手の甲で涙を拭き、床に落ちていたスイートピーを手に取った。
綺麗だろう?悟空は三蔵に微笑んでスイートピーを慈愛する目で静かに見つめた。
花は全ての世界に色を付けてくれるクレヨンだと思っている、きっと汚れきった心を癒してくれる色だと静かに語った。

「生きる価値観を・・・教えてくれた、こんな俺でもさ・・・生きろって言われた気がした」
「・・・そうか・・・」

冷静になった三蔵はポケットから煙草を取り出した、煙草を口に銜えるもののライターがない事に気が付く。
どれだけ閉じこもっていた事が分かった。
ライターも満足に買えない程、閉じこもっていたらしい・・・俺は。
情けない、心の痛みから逃げている、今実感した。
だったら何が出来る?外に出てみるのか?それともズルズル先延ばしにするのか?
まだ分からない、外に出る勇気というか心を決めかねている。
ただ、自分の中で今何かが変わったのは確かで歯車がゆっくり動き出したのも確かだった。

「・・・お前は・・・いつまで、俺の傍に居ようとする?」
「いつまでも、三蔵が外に出るまで」
「・・・外に出たら終わりか?」
「ん?」
「俺が外に出て、俗に言う“引きこもり”じゃなくなったら離れるか?」

三蔵の言葉に少々驚いた、ただそれでも悟空は嬉しかった。
離れると思う?逆に聞き返して笑ってやった、
ここまで世話役ヤツなんてなかなかいないって、三蔵だからこの一年間傍に居て世話を焼いてきた。
我侭でやる気がなくて、普通だったらすぐに放り出したくなる。
それでもやってこられたのは三蔵だったから、他の誰かだったらきっと放り出してた。
悟空の笑みに三蔵も口元を緩めた、やっと笑えたような気がした。

「ちょっと来い」
「何で?」
「怪我、してるだろうが・・・手当てしてやるよ」
「“面倒だがな”っては言わないんだ」

火の点いていない煙草を床に捨てて手招きをする、悟空はスイートピーを持ったまま三蔵の傍に来た。
スイートピーを床に置かせて手を出せと三蔵が言うと悟空は戸惑いながら手を出した。
血が出ている手の平を見て、思わず苦笑してしまう。
こんなヤツ一人止めるためにここまでしやがって、馬鹿猿だな・・・俺はさらに馬鹿か。
自分のシャツを破いて、三蔵は包帯代わりにグルグルまいてやる。
包帯もないからなこの部屋は、それほど年月が経っていた事を思い知らされる。


「わっ!三蔵?!」

「少しだけでいい・・・少しだけでいいから」


伸びてきた手に捕まえられて胸に押し付けられる、
苦しいと思うぐらいの腕の強さ、それでも何処か震えているのは気のせいなのかな?
抱きしめられる強さが哀愁を漂わせ、静かに三蔵は自分と向き合っている。
そっと背中に手を回して大丈夫と宥めるように抱き返した。
今出来る事、三蔵には何もしてやれないけれど祈る事は出来る、傍に居ることは出来る。
負けないで三蔵・・・あの出来事は三蔵のせいじゃなかった、三蔵は胸を張って生きていいんだ。
暫く経って三蔵は名残惜しそうに悟空を離した、ばつ悪そうに悟空の顔を覗き込む。

「・・・悪い」
「いいよ、三蔵がしたいならさ・・・あのさ、まだ無色に見える?」
「分からねぇな・・・」
「三蔵が変われば見える世界も変わるよ、大丈夫」

エヘヘと笑う悟空を見てそうだなと呟いた。
悟空は元気だそうよと怪我をしてない手で三蔵の頬に触れる。

「もう・・・三蔵は大丈夫、咎めてるヤツなんていない・・・」
「・・・・そうだな」
「だいじょーぶ・・・だよ」
「・・・お前もだろうが、お前も・・・咎めているヤツなんていないだろう?」
「・・・え?」
「そうやって、生きようとしてるんだ・・・咎めてるヤツなんざいねーよ」
「・・・そうだね」

悟空は笑った、その笑みは今まで見た中で一番綺麗だった。
見るもの全てを拒否していた、広がっていた無色の世界が自分を追い込んでいた。
そうじゃなかった・・・気が付けば傍に居てくれるヤツが、黙って待っていてくれるヤツが居た。
暫く見詰め合って、どちらが先か顔を近づけて自然と口付けを交わして。

癒しの時間を通り過ぎて悟空は帰るねと告げた、まだ仕事があるから・・・悟空の言葉に三蔵も納得した。
悟空が立ち上がると三蔵も立ち上がった、玄関まで見送ると言ってきたのだ。
外には出ないけれど、悟空にとって嬉しくて仕方がなかった。

「じゃ、三蔵!!」
「・・・ああ」
「お邪魔しました、ちゃんと飯食べてね!!・・・それから」
「もう馬鹿な事はしねぇよ、煩いからな」

当然、悟空は笑った。
ドアノブに手を掛けて振り返り、もう一度お邪魔しました!と言うと三蔵が悟空の名を呼んだ。
どうしたの?と首を傾げる悟空に、三蔵はばつ悪そうに訊ねた。

「・・・明日も・・・」
「明日も?」

さらに三蔵はばつ悪そうな顔をした。

「・・・・・待ってるからな・・・・来い」
「うん!!明日も来るよ!!」

嬉しそうに頷くと手を振ってまたね!と元気過ぎる言葉を残し外へと出て行った。
悟空の背を見送った三蔵は静かに息を吐いた。
何だろうか?向かい合う覚悟が出来たような気がした、いつも座っている指定の場所に座った。
窓の外を見ればまだ雨だった、雨で心が痛かった、それでも向き合えそうだった。

傍にいるアイツ、いつか抱きたい・・・そんな場違いな事も思った。

ふと視界に入った白い袋、この前悟空が押し付けていった植木鉢と種と土の入っている袋だった。
そっと手にとって中を開くと本当に植木鉢と種と土の入っている、三蔵は口元を緩めた。


「仕方ねぇからな・・・」


中身を取り出すと同時に呟かれた台詞は、雨の雑音と混じっていった。



◇



花に水を与えている悟空の表情は柔らかかった、本当に心底笑みが湧き上がってくるような。
今日も三蔵の家に行く予定だからだ。
アレ以来、三蔵は少しずつ自分と向かい合うようになったから。
押入れに仕舞いこんでいた遺品、アルバム、ちょっとずつ見る三蔵の姿が見られた。
時々三蔵がお父さんの事も話してくれた、だから俺も保護者であった金蝉の話をしてお互いに笑い合った。
つまらない事でさえ楽しかった、いつかきっと三蔵は陽の当たる世界へと出てくれる。
空を見上げるとやっぱり晴れていて、澄み切っている空のように三蔵も。

「猿ちゃーん、ニヤついてるぜ?」
「う、煩いな!!いいの!!」

悟浄のからかいに悟空がムッと言い返す。
店長である八戒がまぁまぁと宥めて、花の世話をしていた。
悟浄も花の手入れをしながら悟空をからかうのだ、それも悟空にとって楽しい空間。
いつか三蔵も、三蔵もその空間には入れればいいと思う。

「それにしても客が来ないよな」
「花なんかに興味がないんでしょうね、今日は特に暇です」
「・・・そうだねー・・・」

花の手入れをしながら三人は息を漏らす、どうも暇だ。
悟空は三蔵のところに行こうかな?そう思うほど暇で仕方がない。
でもまだ花のお世話終わってないから、悟空はそう思いながら花に手を伸ばした。
その時だった、お客が来た気配が感じた。
足音で分かったし、三人はやっとお客だと思いながらいらっしゃいと言いかけたが途中で言葉を失った。


「・・・・・・・何だ?お前等、その視線」


相変わらず髪はボサボサで、手櫛で整えただけの様子だったが。
それでも綺麗な金髪、肌が白くて煙草を口に銜えて。
悟空は驚いたがすぐに笑みを浮かべて三蔵!と三蔵に抱きついた。
危うく持っていたビニール袋を落としそうになりながらも、しっかりと受け止めてやった。

「三蔵!!三蔵だーーー!!」
「それ以外、誰に見える?」

三蔵が外に出てきてくれた!悟空は嬉しくて胸に顔を押し付けた。
仕方ないヤツと髪を撫ぜた、悟浄と八戒は我に返り引きこもりに声を掛けた。

「やっと来やがったな、引きこもり」
「うるせぇ、河童」
「肌真っ白ですよ、本当に引きこもりだったんですね」
「黙れ、殺すぞ」

引きこもりと言われるのは腹が立つらしい、自分や悟空ならまだしもてめぇ等に言われたくはないとばかりに睨み付ける。
ただしそれでも彼等の優しさが伝わっているから、それ以上文句は言わなかった。
悟空は顔を上げて三蔵に訊ねた、急にどうしたの?と。
すると三蔵は悟空を離して、ビニール袋の中からあるものを取り出した。
それは植木鉢だった、小さな植木鉢だったがちゃんと土が入って・・・そして見えた小さな葉。

「・・・芽が・・・出からな、外に出てみたくなった」
「・・・さんぞ、育ててくれたの?」
「まだ、芽だけだがな・・・花が咲くまで面倒見てやる・・・仕方ないからな」
「咲いてもだろ?」
「・・・かもな」

枯れるまで面倒見てやる、三蔵の言葉に悟空も悟浄も八戒も笑った。
植木鉢をカウンターに置いて、もう一度じっくり芽を見る。
新芽が可愛らしく槌から出ている姿が意地らしいと思った。

「三蔵、どうです?外にも出られたんですし今この店働き手が足りないんですよね」
「・・・あ?」
「そうそう、俺と猿と八戒だけじゃなー」
「俺は猿じゃない!!」

八戒の申し出に三蔵は驚いた、それでも三人を見て馬鹿共と呟いた。
待っていてくれたのか、まったくアホだこいつ等は。
いつ出てくるか分からないヤツを一年も待ちやがって、自然と笑みを浮かべてしまう。
もちろん、気付かれないようにこっそりとだが。

「それにしてもよ、悟空。三蔵にその花の種をやるなんて微笑ましいだね」
「う、煩い!!エロエロエロ河童!!」
「三ちゃんもさぞ嬉しいぜ?きっと」
「どういう意味だ?」
「知らないのか?お前が育ててる、その花は」
「わぁーーーーー!!悟浄!!黙ってよ!!」

悟空が悟浄を追い掛け回す、悟浄はからかって悟空から逃げている。
どういう意味だ?と八戒に説明を求めると八戒はクスッと笑った。

「イングリッシュラベンダー、きっと色だけだと思ったでしょう?」
「・・ああ、紫だからどうのこうのって」
「それだけじゃないんですよ、その花に込められているのは」

八戒は三蔵に花に込められた意味を説明した。
苦笑いというか三蔵は思わず悟空を見て、愛しいと思ってしまった。
込められている意味色々あるらしいが悟空はこの想いを密かにぶつけていたのかもしれない。
『イングリッシュラベンダー』の花言葉を聞いて三蔵はやっぱり愛しいと想った。

これから生きていくさ、アイツの傍に居て・・・逃げずにな。
三蔵は生きている中で一番の優しい笑みを浮かべたのだった。




<イングリッシュラベンダーの花言葉、“いつまでも貴方を待っています”>











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もうもう、私は・・・感激で、嬉しくて、号泣で・・・
本当に有難うございました!

やっぱり、藍色さんの小説って、すごい感動するんですよv
今回も、じーーんと心にきました。

私のあの、設定・・!!
ユニークといっていただけて嬉しいです〜v
でも、それがかなり素晴らしくなってしまったのはやはり藍色さんの力です〜(笑

ではでは。
今回は本当に有難うございました。
お礼申し上げます。




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ブラウザバックでお戻りください(´∀`*)